青森県男女共同参画センターは男女共同参画社会の実現のための多様な活動を展開します

青森県男女共同参画センター

相談専用電話
017-732-1022
情報ライブラリー直通電話
017-732-1024
〒030-0822 青森市中央3丁目17番1号
  • 017-732-1085
  • 017-732-1073

青森県女性ロールモデル 事例15【木村明日香さん】

夢をカタチに
「思い」を持ち続け実現していく

分野:起業、まちづくり、農林水産

農家レストラン「わらふぁーむ」店主
木村明日香さん(五所川原市)

チャレンジのきっかけ

体調トラブル、野菜の力に出会い調理師に
 料理の仕事に就く前は、介護の仕事をしていました。介護の仕事は業務量が多く体力が必要なうえ、夜勤もあり生活が不規則になりがちでした。その頃の私は、成人後に発症するアトピー性皮膚炎に悩まされていました。
 私の両親は食事を大切にする人で、食材の選び方等にこだわりをもっていました。それを見て育ったので、体調を整えるために食事を改善することから始めました。私には野菜を中心にした食事が合っていたようで、症状が落ち着き、繰り返すこともなく、健康を取り戻すことができました。毎日食べている日々の食事が体を作り、薬にもなるのだと実感した出来事でした。
 その経験から、食事の大切さを伝える仕事をしたいと思い、介護の仕事を退職し、調理師専門学校へ通いはじめました。同時に、飲食店でアルバイトをして経験を積み、無事、調理師免許を取得し卒業することができました。
 卒業後は、地元の神奈川県で農家レストランに勤め、無農薬の野菜や、農業に出会いました。お店のすぐ近くに畑があったので、農作業スタッフが畑を管理する様子を見ることができました。また、新鮮な野菜を届けてもらい調理をするうちに農業への興味が湧き、「自分が育てた作物を使って料理ができたらいいな」と、漠然と夢を描くようになっていきました。

チャレンジのみちのり

自給自足の夢を抱え移住
 23歳で農家レストランの料理長を任され、充実感いっぱいで働いていました。
 私は神奈川県出身ですが、都会で暮らすことはあまり好きではありませんでした。友人たちも新規就農で農業に転身していたり、自営でパン屋をしながら畑をやっていたりと、農業が身近にあり自然の中で暮らす方が好きでした。
 夫とは神奈川県で出会い、実家が農家だと聞いたときは、積極的に農業を継ぐことを勧めました。その後夫と結婚し、夫の実家に移り住んだときも、まったく抵抗はありませんでした。「自給自足の生活をしたい」という夢もありましたし、野菜を育てることにも興味がありました。一番いいなと思ったのは、自分が育てた物を食べられる安心感です。

初めての土地、初めての農業、初めての雪国
 こちらに来てすぐに、小さい田んぼから無農薬栽培で米作りを始めました。機械を使わず、稲刈りも、稲の乾燥もすべて手作業。
 縁があって、地元のレストランや知人のお店などで、私が育てた米を使用してくれるようになり、徐々に無農薬の米が欲しいと言ってくれる人が増え、田んぼも*1反、2反と増やしていきました。(*1反は、一般的な小・中学校の体育館2つ分程度の広さ)
 夫はもちろんですが、一番の味方は夫の両親です。無農薬の田んぼを管理するのは7反くらいが限界ですが、減農薬の田んぼも合わせて、私のやりたい事を理解してくれて、一緒に作業をしてくれます。おかげで、無農薬の野菜作りも始めることができ、よくできたときには、知り合いのレストランに卸すこともあります。
 順調に新しい生活がはじまりましたが、忙しい時期は、1人でやらなければいけないことも多く、中でもトラクターやダンプの運転は苦手でした。更に、雪には驚きました。今では運転もできるようになり、冬の間はオーガニックマーケットやイベントに出店したり、味噌作りのワークショップをして、冬場の楽しみを見つけながら、徐々に雪にも慣れてきました。
 新しい環境で戸惑うこともありましたし「こんなことやりたくないな」「辛いな」と思うこともありました。でも、辛い作業も必ず実を結んで収穫の時期が来ます。たわわに実った米や野菜を目の前にして、収穫の時には「やって良かったなぁ」と思えることで、続けていけるのだと思います。

安心・安全な作物で農家レストラン開業
 周囲の方の協力があって、安心・安全な作物を作ることができるようになり、次は自分が作った作物を自分で調理し、提供したいという思いを持ちました。農地を転用してレストランを建てるには様々な許可が必要で、以前働いていた農家レストランに相談をしながら、国の「農業次世代人材投資事業制度」を活用し進めていきました。
 建物は建築会社を経営している父にデザインをしてもらい、難しいところだけ大工にお願いし、あとは友人に協力をしてもらいながら、自分たちで作業をしました。
 計画から2年。令和2年に念願の農家レストラン「わらふぁーむ」を開業することができました。
 米や野菜はもちろんですが、味噌は大豆も麹も手作りです。新鮮な素材の味を楽しんでほしいと願いながら調理をしています。

チャレンジしてみて

ワークショップを通して人をつなぐ
 わらふぁーむの開業にあたり、農業体験や食育を通して、人の輪を広げる場所になれたらとイメージをしていました。そのため、まず取り組んだのは、味噌づくりや麹づくりのワークショップです。普通のご家庭でも簡単に出来る方法を伝えています。家族の病気、子育て中など、様々な経緯で改めて食事に関心を持った方が申し込んでくださり、人気のワークショップになっています。参加者の方からは、「美味しい」と嬉しい感想をいただいたり、毎年、大豆と麹を買いに来て「子どもと作っています」と話してくれたり、自分自身にとっても励みになり、楽しみながら開催しています。
 農業体験については、野菜作りを通して知り合った近所の方に手伝ってもらいながら、何とか開催しています。色々な方から多くの依頼をいただき、すべてに対応したいところですが、日にちを前もって決めて広報をする企画は、収穫時期の調整や天気の都合があり、対応することが難しいこともあります。いずれは様々な依頼にお応えできるように整えていけたらと考えています。

農作業とレストラン、ライフとワークの調和がポイント
 以前働いていた農家レストランでは、農作業スタッフが収穫、洗浄をして食材を持って来てくれたので、私は調理に専念することができました。しかし、今は農作業も調理も私の仕事なので、営業日を調整し、時にはお義母さんにウェイトレスとして協力をしてもらいながら取り組んでいるところです。もっと営業日を増やしたいのですが、無理をして自分や家族との時間がとれなくなることは避けたいですし、上手にバランスを取りながら長く続けていくことを目指しています。
 いずれは農作業スタッフ、調理スタッフを雇用できる体制を作り、レストランを毎日営業できるようにしていきたいです。米や野菜の販売等は今も続けて需要があるので、どちらの仕事もより皆さんのニーズに応えられるようになりたいです。今年、移住してきた友人が、スタッフとして手伝ってくれることになりました。知識が豊富で頼もしい友人なので、色々なことを教えてもらい、とても心強く感じています。
 オープンしてまだ2年、やっと今基礎ができて方向性が見えてきたところです。今後、更に充実させていくのを楽しみにしています。

新たな夢はホップ栽培と地ビールで地域おこし
 この辺りの地域は限界集落で、農業に従事する方が高齢となり、使用されない土地が増えていると知りました。地域の農家と協力し、ホップ栽培で農地を活用して地ビールを作り、販売ができないかと考えています。地ビールを通して地域を知っていただくきっかけを作り、新たな賑わいを生むことができたらいいなと…。
 そのため、地域の農家の方などに、声をかけはじめたところです。まだ、イメージだけで何も進んでいないのですが、これまでも「これがやりたい」という思いを持ち続け、実現してきました。今後も、自分のやりたい事を声に出しつつ、周りの方たちと協力して進めていけたらいいですね。

これからチャレンジする女性へメッセージ

イメージにとらわれず飛び込んで
 農業に対する従来のイメージは男性が中心で、女性は細かな作業やサポート的に携わるように思われがちですが、今は生産、食品加工、流通販売と6次産業化をしなければ小さな農家は経営が難しくなってきています。以前のようなやり方が通用しないのです。
 そのような中で、自分たちが作った作物をどのように特別な加工をするか、柔軟なアイデアが必要になります。私の友人の男性は自分が作った無農薬の野菜を使って、週1回総菜屋を開いています。とても盛況なようで、週1回の営業を楽しみにしているファンもいるそうです。なんとなくですが、総菜屋は女性が切り盛りをして、毎日営業している印象がありましたが、彼の話を聞いて、誰が総菜屋を経営してもいいし、営業日も自由に決めていいと感じました。これまでのイメージにとらわれずに挑戦していく人が、成功するのではないでしょうか。
 女性はこれまでも生活のために知恵を絞り、様々な工夫をしてきたと思います。道の駅の商品を見ても、女性の名前で丁寧に手をかけた商品が並んでいます。女性たちが、農作業の合間や日々の食事作りなどの中で培った技術が生かされているのだと思います。その点では、女性は今あるものから、多くのものを生み出す力を備えているのではないかと思われます。

自分らしくライフイベントを楽しもう!
 私は五所川原市に移住してきて、すぐに妊娠、出産を経験しました。農業に対してやりたい事もたくさんあって、いろいろ動きたい時期でしたが、子どもが小学生になるまでは一緒に過ごしたいという気持ちもあり、育児を中心に生活を考えることにしました。子どもと一緒に畑に行き、出来る分だけ作業をする。採れた野菜を子どもと一緒に調理する。子どもと一緒だと時間もかかるし、一人でやった方がずっと早いのですが、日々の出来事を一緒に過ごすことで、子どもの学びになると思いながら過ごしていました。
 今は小学4年生ですが、一緒に畑で作業をしていたことで食べ物を残すということをしません。ちょっと苦手なものがあっても、「この野菜はあの人が作ってくれた」と食べてくれます。また、一緒に調理をしていたことで、数年前から包丁を持って、料理もしてくれます。ちょっとした朝ごはんなら作れるので、本当に助かっています。一緒に働くということが子どもにとっては自然なことのようで、レストランのウェイトレスも時々手伝ってくれます。育児中は、思うように動けないこともありましたが、その時期がしっかりと食育につながっていて、生活する力を育んでいたのだと、子どもから教えられた気がします。
 育児の時期を子どもと一緒に過ごした方がいいと言っているのではありません。結婚、出産、育児等のライフイベントは生活が大きく変化する時期です。人それぞれの過ごし方、選び方があると思いますが、どれを選択しても、自分のやりたい事をセーブしたり、思うように時間を使えなかったり、自分が停滞しているように感じる時期になりがちなのかな…と。ただ、その時期は決して無駄ではなく、形を変えて戻ってくるのだと、私は子どもを通して実感しています。
 「自分らしくライフイベントを楽しむこと」が、その後の生活を更に豊かにしてくれるのだと信じて、これからも歩んでいこうと思います。
(令和4年7月取材)

【プロフィール】
神奈川県出身。五所川原市在住。神奈川県の農家レストランで料理長を務め、平成23年、五所川原市出身の夫と結婚。
平成24年農業を営む夫の実家に移住。農薬などを使用しない安心・安全な作物を使った食事を提供したいと考え、令和2年コテージ風の店舗兼直売所、農家レストラン「わらふぁーむ」を開店。農業をしながら農家レストランを経営。

メインページへ
前のページへ

このページのトップへ