平成17年度 事業主と共に営業に携わり、家事・子育て・介護などの多くを担う女性従業者と女性事業主の実態調査
委託先:青森県商工団体連合会婦人部協議会
青森県商工団体連合会婦人部協議会の取り組みと調査研究の目的
本調査は、青森県内の女性自営業者や家族従業者のおかれている実態を明らかにし、今後の県内業者婦人への施策提言に結実され、住み続けられる青森県づくりに貢献できることを目的にしました。
青森県内の女性自営業者は第2次産業552人、第3次産業15,835人、女性家族従業者は第2次産業3,012人、第3次産業15,146人と第1次産業43,203人の8割を占めています。
(平成12年の国政調査)
中小業者は、地域産業を守り、雇用者の約8割に働く場を提供してきました。中小業者の女性家族従業者や女性事業主を私たちは業者婦人と呼んでいます。
業者婦人が多様な就業形態の中でもっている家庭や経営への男女共同参画意識や、社会的・経済的地位向上への啓発の観点から、就業、生活の現況などを調査することで、業者婦人の地位向上を妨げている課題にせまり、施策提言に実らせることを目的にしました。
青森県商工団体連合会婦人部協議会は、業者婦人の要求実現、社会的経済的地位向上をかかげて、2005年6月で創立30周年を迎えます。この節目の年に青森県男女共同参画センターの委託事業として、県全域から583通のアンケートをおよせいただきました事に心から感謝申し上げます。
その結果と考察は、 青森公立大学 教授 田中 寛
執筆で紹介させていただきます。
又、私どもの依頼に貴重な感想が
国立弘前大学農学生命科学部 教授 神田 健策
青森県立保健大学社会福祉学科 助教授 佐藤 恵子
からお寄せいただきましたので紹介させていただき、心からのお礼にかえさせていただきます。
アンケートの概要
1・アンケートの対象と方法
青森県内で法人・個人で営業している業者婦人600人を対象にしました。
(民主商工会婦人部内300人、一般300人)
アンケート用紙の配布は、むつ、八戸、上十三、青森、弘前、五所川原民主商工会婦人部の調査研究グループ委員21人、協力者60人が地域の業者婦人を訪問し、趣旨説明後封筒返送を基本にしました。
2・アンケートの主な項目
①あなたのことについて
②家族の役割について
③経営の関わりについて
④商売の関わりについて
⑤健康について
⑥働く場合に困ることは
⑦自営業をやっていて良かったと思う時
⑧地域で活動していますか
⑨「平和」だから商売続けてきました。憲法変えることにあなたは
3・アンケートの実施期間
2005年8月後半から9月上旬まで
4・アンケートの回収状況
調査対象者600人にアンケート用紙を配布した中から583人から回答があり、97%の高回収率となりました。
提言
1・業者婦人の本格的な男女共同参画社会めざして
(1)家庭での男女共同参画意識の現状
男は仕事、女は家庭 | 賛成派47% | 反対派51% |
---|---|---|
同業者で構成する公式の場への参加について | 賛成派51% | 反対派48% |
女性同士の勉強会講習会などの交流の場は | 賛成派82% | 反対派17% |
男は男らしく、女は女の子らしく育てる | 賛成派78% | 反対派21% |
家事は手があいている方が分担すべき | 賛成派87% | 反対派10% |
育児は手があいている方が分担すべき | 賛成派87% | 反対派11% |
夫と妻は別々の姓であってよい | 賛成派36% | 反対派62% |
介護は家族が担うべきだ | 賛成派57% | 反対派41% |
「3歳ぐらいまでは母親は育児に専念する」「男は男らしく、女は女らしく育てる」は、賛成派がほぼ8割を占めています。
「男は仕事・女は家庭・家庭の重要なことは、男性が決める」は、反対派がほぼ半分にせまり、「育児や家事は手があいている方が分担すべき」は9割近い現状です。
「介護は家族が担うべきだ」は、賛成派は57%です。古くからの男女の役割分担の考え方や、経済的に自立できない(所得税法56条がある)なかでも、男女共同参画意識が根付いてきたことが伺われます。
(2)営業上での男女共同参画意識の現状
経営面の参加について満足していますか | 満足している 43% | 満足していない 53% |
---|---|---|
同業者で構成する公式の場への参加について | 積極的に参加すべき 32% |
参加すべきと思うが能力、知識不足 42% |
女性同士の勉強会講習会などの交流の場は | 必要 63% | 必要でない 6% |
「経営面の参加について」満足していないは53%、「構成する公式の場への参加について」参加すべきと思うが能力、知識不足は42%、「女性同士の勉強会・講習会などの交流の場は」必要は63%です。
女性の願いと実態に違いはありますが、男女共同参画杜会へむきあっています。
(3)女性の視点がいかされる本格的な男女共同参画社会めざして
①業者婦人が輝いて自ら果たしている役割を夫婦関係においても、営業上の決定権においても夫とともに相互に認めあって、ふさわしい地位を占めていく。女性(業者婦人)の視点がいかされる成長しあう中小業者家庭が、きびしい環境の中で益々求められています。
②婚姻や出生届け時に「男女共同参画基本法」や「憲法」、女性の諸権利、諸制度を知らせるなどの広報啓蒙活動を強める必要があります。
③育児、介護休暇、居宅内外にかかわらず業者婦人の子どもも保育所になど、仕事と家庭を両立させる環境づくりを進める必要があります。
2・業者婦人が働く場合に困っていることが浮き彫りに
収入が不安定 | 340人 | 16.1% |
---|---|---|
仕事がない時 | 275人 | 13% |
税金・国保税・年金の支払いのこと | 257人 | 12.2% |
病気やけがで休んだときの保証がないこと | 229人 | 10.9% |
営業の資金繰り | 208人 | 9.9% |
借金・ローンのやりくり | 171人 | 8.1% |
自分が働いた報酬がないこと | 164人 | 7.8% |
自分の自由な時間がとれないこと | 135人 | 6.4% |
3・青森県でも『自営業及び家族従事者」の施策の充実を
女性就業者の推移は、第1次産業47,729人、第2次産業58,927人、第3次産業207,339人で第2次、第3次産業の女性就業者は266,266人で全体の84.4%を占めています。
(総務省国政調査12年)
それだけに中小企業に従事する女性労働者の実態にとどまらず、既存の女性中小企業家、女性自営業及び家族従業者への実態調査から施策の充実が急がれています。
全商連婦人部協議会の実態調査(2003年)では、6割の人が「営業収入だけでは生活できない」と答え、パート・アルバイトと掛け持ちで生活をささえています。
県内の自殺者は全国2位で自殺の動機や原因に経済生活問題が32%となり、生活苦、事業不振、失業です。40代50代の働き盛りが42%も占めています。
大企業本位の規制緩和政策や誘致企業依存では、雇用や税収、集客などの経済効果は一時的なものに限られ、むしろ既存商店街や業者婦人をいっそうの経営難や廃業に追い込んでいます。大型店などは、資金や一括仕入れなど本社に集中し、県内循環しないことが今日の県経済をいっそうきびしいものにしているのではないでしょうか。
これらの変化をふまえ、あらゆる分野の女性たちが、政治的・経済的・社会的及び文化的利益を享受することができるよう計画見直し体制に組み込んでいくことを提言します。
4・多様な就業二一ズを踏まえた就業環境の整備を
(1)「女性起業家に対する支援」について
青森県経済の担い手である中小企業・中小業者の活性化には、男女共同参画の一層の促進が求められています。
OECD先進諸国における自営業者の増減率でも日本だけが、女性起業家が減少しているのは周知のことです。女性起業家・事業主が中小業者として定着できるかどうかは、青森県経済発展に大きく影響します。今後の支援・施策に期待し次のように提言します。
①女性事業主・経営者の研究・対策室など設け、継続的な支援施策を行うこと。
②企業・事業統計など現在行っている様々な統計に男女別に統計データを収集・整理し、変化を把握すること。
③開業支援融資を申し込んだら、「男性の保証人をつけられないか」と言われたなど女性であることで不利益をうけないようにすること。小額の無担保・無保証融資制度を創設すること。
(2)「家族従業者の実態調査」から所得税法56条の廃止を
県内の事業主とともに働く女性家族従業者は第2次産業3,012人、第3次産業15,146人です。今回の調査結果では家族従業者の労働時間「8時間以上」39%で、全商連婦人部協議会(2003年)の29%より10ポイントも上回っています。家族従業者の労働の対価は、給料・賃金として支払われるべきです。所得税法56条「配偶者とその親族が事業に従事したとき、対価の支払いは必要経費に参入しない」とされ、同居していれば働いていると認められません。正当な労働に対する評価を適切に行い、働き甲斐のある環境整備を進めることが急務です。
(3)業者婦人の多くが加入する国民健康保険の充実を
少子高齢化対策としても安心して、出産や病気の時に休むことができる環境整備は、緊急に待たれています。
①自営商工業における家族従業者の実態把握を継続的に行い、変化をつかむこと。また、他県の家族従業者の支援策も調査し、充実をはかること。
②家族従業者はいつでも起業できる素質や能力を持ち合わせ、起業して成功する比率も高くなっています。一人ひとりの能力を引き出すために働きがいのある環境整備をすること。
③国民健康保険に傷病手当・出産手当の給付を確立すること。
5・地域おこし・まちづくり、観光施策について
自営業に携わる女性経営者・女性家族従業者は、まちづくり、地域おこし、観光など、地域の活性化に奮闘している女性たちです。24時間地元の住民として、営業と生活を営み、子育てや介護の悩みなど、身近な相談相手になっています。住み慣れたまちで住み続けられるようにするためには、業者婦人が生き生きとして働き商店街も活性化する必要があります。又、街の歴史を活かし文化香る、子どもからお年よりまで安心して暮らせる街づくりの視点を大切に強める必要があります。
6・国際社会の「平等・開発・平和への貢献」について
昨年は戦後・被爆60周年の節目の年でした。日本は平和憲法があることで、60年間国外で戦争することもなく、アジアはじめ国際的にも大きな貢献をしてきました。
「平和でこそ商売繁盛です」憲法を変えることに賛成は、16.5%のみです。
日本を戦争する国にせず、引き続き平和な社会を追求することが求められています。
アンケート結果によせて
青商連婦人部協議会「業者婦人アンケート」結果を読んで
弘前大学農学生命科学部 教授 神田健策
青森県商工団体連合会婦人部協議会が実施した上記アンケート結果について、感想を求められたので、簡単に感想を述べたいと思います。
今回、貴婦人部が県経済を支える業者婦人の実態と意識に関する調査を実施し、貴重なデータを提供していただいたことに感謝致します。
アンケートから県内の業者女性が置かれている状況が読み取れます。
全体として業者(会社)の経済規模(売上高、従業員数など)が不明なので正確には分かりませんが、その実体は家族を中心に行われている「零細」な経営が大半であると見ることができます。それ故、回答者の多くは経営者(主人)と一緒に営業、生活を行っている女性(主婦的性格)であるため、年齢も50代を中心に40代から60代に集中しており、業者婦人の実態が反映された調査結果だと考えることができます。そのことは、業態の内、「白色申告」が過半数を超えていることからも分かるように、「家計費以外で給料を受け取っているか」の質問に6割以上が、「給料を受け取っていない」実態にあると答えており、「家計が事業経営と切り離されてないで行われていること」を示しています。この点では、農業経営においても法人化の必要性が叫ばれているとはいえ、思うように進んでいない実態と酷似した状況にあることが分かります。特に、報酬面では100万円未満(扶養者の扱いである86万円未満を含む)が過半数を占めており、また、労働条件、健康状態などで問題を抱える方も少なくないと言えます。
こうして見ると業者婦人の大半は、決して良いとは言えない経済状況の中で、経営者(ご主人)を支え、家族の生活を守りながら一生懸命働いているという姿が浮かんできます。しかし、その一方で、自営業について、「お客さんが喜んでくれた時」に仕事の喜びを実感し、「定年がない」「時間が自由に使える」「仕事と家事とのやりくりがつきやすい」ということをプラス面として考えており、零細経営の中ではあるが一生懸命仕事に励んでいる様子を伺うことができます。
こうした業者が地域経済を支え、私たちの日常の生活向上に果たしている役割を改めて知らされたアンケート結果であったと考えます。
最後になりますが「憲法改正」に関するの質問の内、回答者の8割が「改正反対」と答えており、現憲法の「国民主権、基本的人権、平和主義」の三原則が今後とも擁護されることを願っているのだと考えることができますが、戦後60年、平和だったからこそ、業者婦人の仕事が生活があったのだと私もこの点には同感です。
『自営業女性及び家族従業者のアンケート』結果について
青森県立保健大学 助教授 佐藤恵子
本調査は、青森県において初めて、当事者の立場から自営業に携わる女性たちの労働や生活の実態を明らかにしたものである。アンケートから明らかになった、本県の自営業に従事する女性たちの姿は、概ね次のようにまとめることができるだろう。
1・青森県の自営業女性の姿
年齢的には40代から60代、法人化していない建設関係やサービス業、料理・飲食などの事業所で、事業主の妻として、事務や帳簿、現場の仕事など重要な役割を担っている。
1日の労働時間は、仕事と家事をあわせて平均12時間を上回り、睡眠時間は平均6時間半、休日は月1回。給料を受け取っているのは3人に1人、金額は年間100万円に満たない。自由になるお金に関する心配をしながら、客に喜ばれることを生き甲斐に、仕事と家庭に奮闘している。
意識の面では、性別役割分業に反対する人が半数を超えるが、家庭の決定権は夫にあるとする人が半数を超え、夫婦別姓に反対する人も6割を超えている。3歳神話や性別しつけを支持する人が圧倒的に多く、家族介護に賛成する人も半数を超える。全体的にみて、伝統的な夫婦観・家族観を持っている人が多い。
ただし、こうした女性たちが多数を占める一方で、自ら事業主である女性も27%にのぼり、年間の報酬が400万円以上で、自由に使えるお金が10万円という人もいる。意識の面でも、ばらつきが目立ち性別役割分業を始めとする伝統的家族観に対して明確に反対の考えを持つ人たちもいる。
2・男女共同参画からみた問題
以上のような自営業女性たちの状況について、男女共同参画の観点から様々問題が指摘できるが、ここでは、最も主要で基本的と考えられる労働の状況に関する問題についてコメントしておきたい。先にみたように労働時間や給料を始めとする労働条件は、青森県の一般女性労働者はもちろん女性パート労働者に比べてもその厳しさが際だっている。法人化していない家族経営が多いことから、当然ないし止むを得ないとの見方もあるかもしれないが、たとえ自営業であろうと、労働に対する正当な評価と報酬が得られることは女性が自立して生きるための基本的な要件である。
この点に関して残念なのは、多くの女性たちが、労働条件を決めるにあたって<文書で決める必要はない>と考えていることである。経営への参加についても現状に満足していない人が半数を超えてはいるが、独立開業を考えている人が少ない。公の場への参加についても、<参加すべきと思うが、能力・知識不足である>と消極的な人が多数を占めている。
さらに家族に関する意識を見ても、家族の決定権は夫にあるとする人が多く、この点でも仕事と家庭両面において夫を対等なパートナーとみなすよりも、夫の意向に従い健気に支える妻としての役割に甘んじている人が多いのではないかと思われる。
3・自営業女性の交流と連帯を
今日の厳しい経済・社会情勢の中で自営業者全体が危機的状況にあり、女性の労働条件などで考慮している余裕はないというのが実情だろう。しかし、だからこそ当事者である自営業女性自身が、現状を問題として認識し、改善への強い意志を持って行動を起こすことが必要ではないだろうか。先にもみたように、自ら事業主として好きな仕事に積極的に取り組んでいる女性たちが3割近くもいる上、女性同士の学習会や交流会が必要と考えている人が7割も超えている。業種や経営上の立場を超えて、自営業女性たちが交流し連帯することができれば、必ずや明るい展望を開くことができると確信している。
最後になったが、日々の仕事や家事などで多忙な中、意欲的に取り組まれた調査研究グループの方々に敬意を表すると共に、行政の担当部署等においても全国的規模で3年ごとに実施されている『全国業者婦人の実態調査』(全商連婦人部協議会)とあわせて、自営業における男女共同参画を進めるための基礎資料として活用されることを強く要望したい。
<資料> アンケート
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配布先
- 県内各市町村男女共同参画担当課
- 全国の男女共同参画(女性)センター
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青森県男女共同参画センター
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