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平成16年度 男女共同参画プランにみる女性と健康~生涯を通じた女性の健康支援についての調査研究~

委託先:ネットワークA・L

ネットワークA・Lの取り組みと調査研究の目的

 ネットワークA・Lでは平成15年度の1年間、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ~自分のからだを知りましょう」をテーマに講演会やワークショップを開催し、「女性の健康」について考えてきました。その中で、いくつかの課題が浮かび上がりました。
 その中のひとつとして、各市町村の男女共同参画プランには「生涯を通じた女性の健康」に関する施策が盛り込まれていますが、その取組みの中にリプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点が盛り込まれているかを調査する必要性を感じました。

調査研究の目的

① 男女共同参画プランを策定している市町村を対象に、「生涯を通じた女性の健康」の取り組み、施策の進捗状況や内容がリプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点を盛り込んでいるかを調査し、また、県内の参考事例となる施策があれば、紹介していく。
② 県内各市町村の健康推進関連の職員及び男女共同参画関連の職員への意識調査によって、担当者が男女共同参画やリプロダクティブ・ヘルス/ライツについて再認識する機会を提供する。ひいては担当者が主体性をもって施策にあたることを希望する。また今後どのような施策や教育が必要かを考察する。
①②の調査を通し、県内における「生涯を通じた女性の健康支援政策」に反映することを目的に、県民が健康でよりよい人生を送るための指標を示していきたいと考えます。

第1章【調査Ⅰ】男女共同参画プランのなかの「生涯を通じた女性の健康」施策の現状

調査の概要

1 調査の目的

 男女共同参画プランの策定済み市町村を対象に、『生涯を通じた女性の健康』の課題に対し、具体的にどのような施策がとられているか調査する。
 また、平成16年3月に青森県に提出済みの『生涯を通じた女性の健康づくりについての要望書』に取り上げた『女性の総合保健システムの構築』について、どのように取り組んでいるか調査する。
 調査結果でクローズアップされた課題や問題点に関しては、その問題解決のために何が必要か、また施策を妨げる原因と対策について調査で知り得た取り組みを提示する。なお、『女性と健康』に積極的に取り組んでいる千葉県の施策について情報収集し、参考とする。

調査Ⅰにおける考察

1 男女共同参画プランの中のリプロダクティブ・ヘルス/ライツについて
(1)プランの中にリプロダクティブ・ヘルス/ライツの言葉が掲げられているか

 リプロダクティブ・ヘルス/ライツの言葉は1994年の国際人口開発会議(カイロ会議)において概念が提唱され、1995年の世界女性会議で採択された行動綱領のなかに「女性と健康」が盛り込まれた。1999年に国の男女共同参画社会基本法、2000年に策定された男女共同参画基本計画のなかに盛り込まれた経緯がある。そして青森県では2000年10月にあおもり男女共同参画プラン21を策定(平成14年6月改訂)し、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの言葉が盛り込まれた。
 そのような背景の中、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの言葉がプランの中に掲げられている市町村は、男女共同参画プラン策定済み13市町村のうち9市町村であった。
掲げられていない4市町村のうち平賀町は国の男女共同参画社会基本法や男女共同参画基本計画などが策定される前の平成8年に策定されたプランなので、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの言葉が盛り込まれていないと推測できる。すなわち、早い段階で作成されたので盛り込まれていないとか、最近作成されたので盛り込まれているとか、そのような関連性はみられない。

(2) リプロダクティブ・ヘルス/ライツの位置づけ

 プランの中にリプロダクティブ・ヘルス/ライツの言葉が掲げられている9市町村のうち、重点目標などの「前文」や「現状と課題」及び、「施策の方向」の両方にリプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念が掲げられているところが6ヶ所。重点目標などの「前文」や「現状と課題」にのみが2ヶ所、「施策の方向」のなかにのみに掲げられているところが1ヶ所であった。
 八戸市は「施策の方向」にはリプロダクティブ・ヘルス/ライツの言葉はなく、「性と人権の尊重」という表現になっている。
 以上のことから、13市町村のうち重点目標などの「前文」や「現状と課題」及び、「施策の方向」に掲げられている市町村が6ケ所のみということは、プランの中のリプロダクティブ・ヘルス/ライツは健康施策においては重要な位置付けにあるとはいえない。

(3) リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点が明確であるか

 リプロダクティブ・ヘルス(女性の健康)とリプロダクティブ・ライツ(女性のからだと性の自己決定権)の二つの視点から分析してみた結果、リプロダクティブ・ヘルス(女性の健康)についてはほとんどのプランに掲げられていたが、リプロダクティブ・ライツ(女性のからだと性の自己決定権)については弘前市、八戸市、青森市、黒石市、むつ市、尾上町、浪岡町の7市町村であった。
 なかには「男女がともに参加する健康づくりの推進」(八戸市)、「生涯にわたる女性と男性の健康支援」(浪岡町)と、あえて男性もと明記しているプランもある。
① リプロダクティブ・ヘルス(女性の健康)
青森市、尾上町は『現状と課題』に、黒石市は前文に「女性は、その身体に出産のための仕組みが備わっているため、男性とは異なる健康上の問題に直面します。そのため、すべての女性の生涯を通じた健康を支援する必要があります」と、表現は多少違うものの国の基本計画で掲げられている内容の文面がある。
② リプロダクティブ・ライツ(女性のからだと性の自己決定権)
弘前市、八戸市、青森市、黒石市、むつ市、尾上町、浪岡町のプランには「前文」で「女性の健康は人権のひとつ」「女性の人権に配慮した支援体制」「女性に保障された権利」あるいは「個人の権利である」と述べられている。
 性の自己決定権についてそれぞれの「前文」で具体的に明記されている。弘前市では「自分のからだのことは自分で決定する」。青森市では「いつ何人子どもを産むか産まないかを選ぶ自由、安全で満足のいく性生活、安全な妊娠、出産、子どもが健康に生まれ育つこと等が、女性に保障された権利」。尾上町では「子どもを産むか産まないかを選ぶ自由、安全で満足のいく性生活、安全な妊娠・出産、子どもが健康に生まれ育つことなどは個人の権利である」。むつ市では「女性は妊娠、出産に関して自己決定の権利を有しており」、黒石市では「ところがこれまでは、女性であれば結婚して子どもを産むのが自然なこととされ、当事者である女性の意思や、心身の健康にはあまり注意が払われてきませんでした。避妊や妊娠、不妊などに対する意識の違いも大きいため、多くの女性が、望まない妊娠や中絶によって心身に痛手を負ったり、子どもを産まないことや産めないことに対する偏見やプレッシャーに苦しめられています」と述べられている。

(4) 具体的施策として掲げられているか

 施策の方向に具体的に示されているプランは7ケ所であった。その具体的施策をみると、ほとんどが「リプロダクティブ・ヘルス/ライツの啓発・周知および浸透」であり、周知の方法などは具体化されていない。また、言葉がまだ一般的でないので、その概念を伝えることを目標として、学習、情報提供という程度である。

2 ヒアリングの結果をうけて

リプロダクティブ・ヘルス(女性の健康)に関わる施策は従来の母子保健法、老人保健法、健康増進法に基づいた施策を当てはめているところが多い。
リプロダクティブ・ライツ(女性のからだと性の自己決定権)は周知・啓発・学習・情報提供が掲げられているが、プランの中に具体的施策としてうまく生かされていない。
以下にみると

① 女性の総合保健システムの構築について

ア、健康教育事業 イ、女性健康相談事業 ウ、健康診査 エ、女性労働者への健康支援 オ、性感染症とエイズ対策 カ、女性に対する暴力という6つの観点から質問した。
 ア、健康教育事業については、女性に特化した教育は意識的にはしていないというところが多かったが「婦人科検診の際に健康教育・健康相談を実施している」というところもあった。最近多く行われはじめているのは「骨粗鬆症予防」に関する教育である。「乳がん自己検診法、更年期障害などをいろいろの場を活用して教育をしている」というところもあった。父親の育児参加を促すため、「母親学級」ではなく「両親学級」という形式で実施しているところも増えている。しかし、一般的に健康教育の参加者の多くは女性で、栄養教室になると大多数が女性である。男性の健康診断の受診率は高いが、家族の健康管理は女性という思い込みが男女ともにあるのだろうか。
イ、女性健康相談事業は女性だけではなく、一般相談として実施しているところが多い。一方で『女性のための健康相談』を月1回実施している保健所がある。
各市町村で健康相談を受けているのは保健師がほとんどである。健康相談を受ける場合、その対応は専門知識が必要となる。例えば、助産師、保健師、薬剤師、栄養士、精神福祉相談員などがその対応にあたることがベストであるが、各市町村で対応できるものではなく、保健所という大きなくくりで、充実した内容で図るべきと考える。今後は県内子ども保健センターを中心に、それぞれの市町村がネットワークし、相談窓口の充実を図り、効果的な相談窓口を設置する必要があるのではないだろうか。
一般相談の中にはDVに関しての相談も含まれていることもあり、保健師が相談にのり、専門家を交えて支援することもある。
ウ、健康診査は老人保健法に基づく40歳以上の基本健康診査が基本であるが、年々受診率が低下しているところもある。一方で40歳未満の女性を対象に「女性の健康診査」「レディス検診」を実施しているところも増えてきている。なかには、受診者の要望から子連れでも受診できるように保育室を設けたところもある。
保健師がとらえている健康診査の受診率は、老人保健法に基づいて行われている健康診査であり、対象は40歳以上の男女となっている。これを国民生活基礎調査の結果(平成13年国民基礎調査)から見ると、「健康診断を受けた」と答えている割合は、全国では女性54.9%に対し男性63.0%。青森県では女性54.9%に対し男性62.9%と男性が高い割合となっている。年代別に比較すると25歳から34歳までの男女の格差は13.3%。35歳~44歳までの格差は17.0%と男性に比べ女性の受診率が低い。
また、平成15年9月に青森県政策マーケティング委員会で行った「県民生活の現状に関するアンケート調査」で「健康診断の受診率」を調べたところ、男性71.2%、女性58.5%と、やはり女性が低い結果となっている。職業別で見た場合、専業主婦(主夫)の受診率は35.2%で学生の36.8%よりも低い数字となっている。
女性が男性に比べ受診率がなぜ低いのかと考えた時、多くの男性は仕事を持っており、職場で健康診断を受けることができる。しかし、専業主婦で老人保健法の対象外である20代、30代の女性の多くは医療・保健サービスとしての健康診断を受ける機会が少ないことがわかる。
働く女性が多くなっているとはいえ、欧米に比べまだまだM字型就労であり、性別役割分担意識がある。そのなかで20代、30代の男女を比べると、出産・子育て年代の女性にとって健康施策面での格差が生じているといえる。
以上のことからも、40歳未満を対象にした健康診査の実施は今後ますます広がりをみせてほしい。ところで、若い人の受診率の低さについて、「なぜ健康診断にいかないか」というテーマでワークショップを開いた結果(青森市男女共同参画社会づくりをすすめる会/女性のからだと医療を考える部会主催・平成16年8月開催)、「子どもが小さいので、健康診断に連れて行けない」などの意見があったが、先にも紹介した「保育所を設置するなどの工夫」をしている自治体があることはすばらしいことである。
 エ、女性労働者への健康支援について聞くと、『企業内の女性保健には踏み込めない、保健所が主に担当しているようだ』『職域には踏み込めない』『働く人たちのために日曜日に検診を行っている』『保健所を通して企業側に検診のPRと働きかけをしている』『雇用者側の理解と本人の自覚が必要』『妊婦には母性健康管理指導事項連絡カードを発行』など、努力はしているようだが、『企業検診の状況がつかめない』『職域との対応に苦慮している』という意見もあった。
 働く女性の健康問題に関しては、妊婦あるいは中高年労働者への健康支援を行なっているところはあるようだが、行政の保健師が職域に入り込み、健康支援していくことは難しいようだ。労働者の健康支援というと、男性中心のものが多く、からだの仕組みが違う女性には適さないことも多い。首都圏では働く女性の専門外来ができ、ケアが始まっている。働く女性が抱える健康問題に対する支援のあり方は今後の課題といえる。
 オ、性感染症とエイズ対策に関しては保健所管轄で取り組んでいる。独自に行っているところでは、思春期講座の際に説明したり、パンフレット・リーフレットの配布程度が多い。
 カ、女性に対する暴力については、直接の窓口は他の課というところが多いが、乳幼児健診の育児相談などからDVが発覚したりということもあり、他の課との連携の必要性を感じているようである。また、研修をして専門性を高めていきたいという声もある。
 最近、周産期のうち、妊婦の5%にDV被害割合があり、DVのリスクがある妊婦を含めると24%になることがわかったという調査研究が発表された(聖路加看護大学女性を中心としたケア研究班/編「EBMの手法による周産期ドメスティック・バイオレンスの支援ガイドライン」金原出版株式会社より)。保健師等がDVについての専門知識を持つ必要性があると考える。

② ライフステージごとの取り組みについて

 ライフステージごとの取り組みを年少期、思春期、出産可能期、更年期、高齢期と5段階にわけて見てみた。
年少期対象の施策内容は乳幼児健診から歯科指導、禁煙教育がほとんどである。浪岡町のように病院と連携し小児生活習慣病健診と栄養教室、禁煙教室を実施、効果を上げているところもある。
思春期になると「赤ちゃんふれあい体験」が多くの市町村で実施されている。弘前市や八戸市では産婦人科医による性教育の講演会などを教育委員会を巻き込んで定期的に実施している。
出産可能期にはマタニティ教室、家族計画指導、母子保健医療体制の整備。乳がん、子宮がん検診、妊婦のフォローアップ体制の充実などが施策として行なわれている。不妊治療に関して八戸市では日赤病院・市民病院・保健所に相談窓口があるので紹介するかたちをとっている。
更年期になると、健康診断、健康づくり、生活習慣病予防や、心の病気に対する学習会も実施され、積極的な取組みがなされている。骨粗鬆症や避妊の相談などもある。
高齢期では介護予防教室、生きがい活動の支援、B型機能訓練教室も行なわれている。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツは生涯にわたる健康課題であり、その範囲は広い。しかし、現状では思春期の教育では多くの市町村で『赤ちゃんふれあい体験』が行われ、保育所などを訪問し、赤ちゃんを抱いて生命の大切さを学ぶという内容になっている。性や避妊についての『知る権利』を与える取り組みが不十分なまま、『産む』ということが強調されている。受精から出産へのプロセスだけが強調されており、『産む・産まない・産めない』ことの多様性やセクシュアリティの違い、避妊方法などはほとんど教えられていないことがわかった。
20代、30代対象の施策をみると、生み育てることを中心とした母子保健が中心となっている。そして、更年期、高齢期になると老人保健法に基づいた施策が中心となり、産まない女性への健康支援が手薄となっている。

③ その他
保健・医療従事者に対する研修について

国の具体的施策のなかに「リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する研修の充実を図る」とあるが、市町村レベルの施策の中にはリプロダクティブ・ヘルス/ライツの周知や啓発に関わる人たちに対する研修については掲げられていない。しかも県や保健所が主催の研修会に参加しているというものの、予算の都合上、なかなか研修にいけない状態である。男女共同参画やジェンダー教育などの研修については、業務として参加することはむずかしい。また、業務が多忙なため、思うように研修に行けず、自己啓発する場が足りない。
自己啓発に結びつくきっかけや仕事に対する意欲を高めるためにも、研修の機会を増やし、啓発・周知および相談に応じることができる専門的知識を身につける必要性があると考える。指導にあたる行政職員にリプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点がなければ、プランの中のリプロダクティブ・ヘルス/ライツは絵に描いた餅にすぎない。
今後は保健師だけに限らず、医師、助産師、看護師、カウンセラーや保健所、市町村保健センターなどの担当職員に対するリプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する教育が必要である。

ネットワークの構築について

 青森市のプランにのみ「リプロダクティブ・ヘルス/ライツに取り組む関連機関の連携強化」が施策に盛り込まれている。
児童相談所、保健所、医療関係機関、町内会長、民生委員など、ケースバイケースで連携を取っているようである。規模が小さい町ほど連携がとれているように感じられた。また、市町村ごとに保健協力員がおり、協力しながら事業を進めている。
 青森県内にも女性外来が国立、県立、市立など、計4ヶ所に設置され(平成17年1月現在)、各医療機関ともに好評で予約待ちという状況にある。今後は保健所や市町村の相談窓口と女性外来の連携が必要となってくるであろう。
また、人材の育成という意味でも、独立行政法人弘前大学医学部の医師の臨床研修制度の中に、「性差を考慮した医療」コースを選択科目として設置し、患者の心と体を総合的に診療できる人材の育成をめざすべきではないだろうか。
「1市町村別男女共同参画プランの中における施策」にみられるように、『講演会を開いた(八戸市)』『思春期教育や性に対する教育などの中で(青森市)』『命を大切にという教育の中で実施(黒石市)』『妊婦を中心にすすめている(十和田市)』などがあげられている。しかし、全般的にリプロダクティブ・ヘルス/ライツの周知まではまだまだというのが現実のようである。
以上のことから、どのプランをみてもWHOが提示している「健康(身体的、社会的、精神的に健康である状態)」を加味し、「女性だけが、妊娠・出産する」「女性が男性に比べ、社会的に不利益をこうむることが多い(ジェンダーの問題)」という背景を意識した施策とはなっていない。
国の男女共同参画基本計画の基本的方向にある、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する意識の浸透」において、「女性は妊娠や出産する可能性があることもあり、ライフサイクルを通じて男性とは異なる健康上の問題に直面する。こうした問題の重要性について男性を含め、広く社会全体の認識が高まり、積極的な取組みが行われるよう気運の醸成を図る」と掲げられているが、市町村レベルのプランのなかには具体的な施策が盛り込まれていないのが現状である。

3 施策の進捗状況調べの状況(第2節2を参照)

 プラン策定市町村の半数が、進捗状況調べをしていないことがわかった。また、その資料を各課の施策に反映できていないのが実情のようである。プラン作成後は定期的に施策の進捗状況を調べ、各担当課に改善などを求めていかないと、生かされないのではないだろうか。
 『ジェンダーの主流化』が言われているが、施策のなかに男女共同参画の視点を盛り込むことで、はじめて男女共同参画社会づくりがすすんでいく。男女共同参画プランのなかに『生涯を通じた女性の健康施策』が盛り込まれている理由を男女共同参画関連課および施策担当課が再認識していくためにも、進捗状況を調査することが大切だと考える。

第2章【調査Ⅱ】「生涯を通じた女性の健康」に取組む人たちの現状と意識

調査の概要

調査の目的

当グループが開催した平成15年9月のワークショップで、医療者や保健指導者の言葉、態度の中での女性に対するジェンダーバイアスの問題があげられた。また、調査Ⅰのヒアリング調査の結果、「生涯を通じた女性の健康施策」はこれまで母子保健法や老人保健法、健康増進法の事業としておこなってきたものをあてはめたものが多く、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの観点に基づいた施策とはなっていないことがわかった。健康推進課関連の担当者からは、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツについてや、関係課とのネットワークの必要性、職域に入りこむことの必要性など、これまで日々追われる業務の中で見えなかったことが再認識させられた」などの声があがり、問題部分がクローズアップされた。
そこで、調査Ⅱでは
① 『生涯を通じた女性の健康』施策に関わっている人を対象に、男女共同参画に対する意識
② リプロダクティブ・ヘルス/ライツに対する認知度と考え方
③ 女性の健康施策に対する考え方
④ ネットワークの構築に対する考え方
⑤ 施策を進めていくうえでの職場環境との関係性と個人の仕事に対する考え方
⑥ その他、『生涯を通じた女性の健康』に対する意見
以上、大きく6つに分けて意識や実態を探り、リプロダクティブ・ヘルス/ライツへの気づきの場と「生涯を通じた女性の健康施策」がリプロダクティブ・ヘルス/ライツの観点に基づいたものになるための改善策を見出していく。
また、次のような比較分析によって、そこにみられる関係性や問題点についても考察する。
① 性別による比較
② プランがあるところとないところの比較
③ 事務職と技術職の比較
④ 管理職と一般職の比較
⑤ 男女共同参画関連課職員と健康推進関連課職員の比較

第2節 調査結果の概要

1 調査結果のまとめ
(1)回答者について

県内24市町村の男女共同参画関連課と健康推進関連課の課長から担当者まで、全員に依頼した。回答者は女性が多いが、これは健康推進関連課には保健師が多く、保健師のほとんどが女性であるためである。
 勤務している職場も、保健師がいる健康推進関連課が4分の3を占める。技術職のほとんどが保健師である。
 回答者の2割強が管理職である。
 回答者の約半数が、勤務している市町村には男女共同参画プランに関する計画があると答え、4分の1があるかないか「わからない」と答えている。「わからない」と答えているほとんどは町あるいは村である。男女共同参画プランがある市・町の職員はプランがあることを知っていると言える。
 30代の8割強が女性である。年代があがり、管理職も増えると同時に男性の割合が高くなってきている。健康推進関連課の4分の3は女性で、男女共同参画関連課の約6割が男性である。技術職(この場合は保健師と考える)のほとんどが女性である。
管理職を男女で比較すると約3割が女性である。これは行政における管理職の女性の割合に比べ、高い数字となっている。健康推進課には保健師が多く、そのほとんどが女性であるため、管理職も女性が多いといえる。
一般職を男女で比較すると4分の3は女性である。
職場の所在地で比較すると、女性の割合が高いのは市で、4分の3が女性である。町はほぼ半々である。

(2)男女平等に関する意識について
問1 男性の地位の平等感

「平等」という回答が半数を超えたのは「学校教育」のみであった。その他の項目では「男性優位」「やや男性優位」の合計が半数を超えている。男女別で比べてみると、全体的に男性よりも女性のほうが男性優位と感じているようである。なかでも、「法律・制度」に関しては、改正男女雇用機会均等法をはじめ、男女共同参画社会基本法、DV防止法など制度的には整ってきていることから、男性から見ると平等になったと感じる人が多いのに対し、女性は「法律はできたが、まだ十分活用されていない」と感じているのか、男性に比べ「男性優位」と答えている人が多い。
また、本調査と県民対象調査を比べた場合、一般県民よりも、行政職員の方が、男女の地位の不平等を感じている人の多いことがわかる。

問2 性別役割分担、分業意識

「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担についての質問に対し、多くの人が「同感しない」と答えている。しかし、男女別に見ると、女性の7割以上が性別役割分担に否定的であるのに対し、男性は半数にも満たない。なかでも「同感する」と答えている男性が1割強、また「どちらともいえない」というあいまいな回答をしている男性が半数弱いることは今後の課題といえる。
また、県民対象調査の結果と比べると、「同感しない」が県民対象調査38.5%、本調査63.2%と約25ポイントの差があり、行政職員の方が一般県民よりも性別役割分担意識に否定的であることがわかった。

問3 リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する意識

 男性も女性も「からだについて」よりも「性について」話すことのほうが恥ずかしいと感じている。また、男性の方が「性について話すこと」に対し、「自分自身」「女性」「男性」いずれにおいても恥ずかしいととらえている人の多いことがわかる。
「女性であれば、子どもを産むのは当然のことだ」「女性が仕事を続けるために、子どもを産まないと決意することはわがままだ」などの項目の結果から、男性の方が女性よりも、女は子どもを産み育てることが仕事よりも大切、と考えている人が多いことがわかる。
 性の自己決定について知る項目に関しては「子どもを『産むか産まないか』について、パートナーと納得がいくまで話し合って決めるべきだ」とほとんどの人が思っているのに対し、「人工中絶」や「避妊の協力」や「望まないセックスに対して『NO』と答える」ことなどに対しては、女性よりも男性の方がわずかではあるが否定的である。
 これらのことから、保健師が多い女性のほうが男性よりも「性の自己決定」の意識が高いと言える。

問4 女性の健康に関する言葉の認知度

 昨年から青森県でも女性外来が開設され、マスコミなどでも大きく取り上げられていることからか、ほとんどの人が「女性外来」の言葉を知っていた。これに対し、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の言葉は約半数の人が「知らない」と答えており、国や県の男女共同参画社会基本法、基本計画などに盛り込まれているにもかかわらず、施策担当課である男女共同参画関連課、健康推進課の半数近くの職員が言葉さえ知らないということは重大な問題である。

問5 少子化の原因

 少子化の原因として、「育児と仕事を両立させる社会的な仕組み(育児休業・雇用条件・保育など)が整っていないから」「子どもを育てるのにお金がかかりすぎるから」と多数の人が答えている。「子どもは少なく産んで大切に育てたいという人が増えたから」「子どもよりも余暇の充実が大切だという人が増えたから」「子どもよりも仕事が大切と考える人が増えたから」などという個人的な意識よりも、社会的要因が原因と考える人が多い。
 特に、県民対象調査よりもほとんどの項目で高い数値であることは、行政職員としての意識も働いているのではないだろうか。
 男女別に見て最も違いが目立つのは「女性の精神的・肉体的負担」であり、女性が32ポイント高い。また、「育児と仕事を両立させる社会的な仕組み(育児休業・雇用条件・保育など)が整っていないから」の項目も21ポイント高く、女性が子どもを産み育てることに対する負担を感じていることがわかる。

(3)リプロダクティブ・ヘルス/ライツについて
問6 リプロダクティブ・ヘルス/ライツについての認知度

行政担当者として施策に関わっているにもかかわらず「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の言葉についてはまだ知らない人たちが約6割と大変多い。

問7 リプロダクティブ・ヘルス/ライツについての考え方

 「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の言葉を知っている人たちは、その考え方についてほとんどの人が「同感する」と答えている。「内容について」も66.7%の方がおおよその説明ができると回答している。知っている人の多くは周知の必要性を感じている。

問8 リプロダクティブ・ヘルス/ライツの推進度

「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の言葉を知っている人たちは、50%の人が、「個人的に学習したことがある」と答えているが、「公務で研修に参加した」ことがある人は2割である。また「職場で話題」にし、「意識しながら事業をしている」と答えている人が半数近い。一方、「住民に対しての研修」などは、9割近い人が開いたことなどはないと答えており、意識はしているが、施策に結びついていない。

(4)女性の健康施策について
問9 生涯を通じた女性の健康施策の必要度

すべての項目が、「必要である」「やや必要である」と考えられており、うち18項目は、90%以上と高い数値を占める。中でも、最も必要だと考えられているのは、「思春期教育の中での正しい知識の提供」であり、98.2%を占め、思春期教育が重要だと考えられていることが分かる。また、「健康づくりの推進」「予防対策の推進」も高い数値を示している。
一方、「必要ではない」「あまり必要ではない」の合計は低く、最も必要性を感じていない「不妊専門相談サービスの充実」でも17.2%と低い数値である。
健康推進関連職員と、男女共同参画関連職員を比較した場合、大きな違いはみられない。「思春期教育の中での正しい知識の提供」が最も必要と考えられていることも、また、「不妊専門相談サービスの充実」の必要性が低いと考えられていることも、ともに同じ結果である。しかしながら、わずかな差異ではあるが、健康推進関連職員の方が男女共同参画関連職員より、女性の健康施策に対する必要性を強く感じているとの結果が出ている。
リプロダクティブ・ヘルス/ライツを知っている人と知らない人を比較した場合、「必要である」「やや必要である」の合計は、知っている人の方が知らない人より⑲を除くすべての項目においてポイントが高い。中でも、大きく違うのは、「生涯学習の中での講座」「教職員への研修」「医療保健従事者への研修」であり、この3項目は、「必要である」「やや必要である」の合計が、知っている人の方が知らない人より約40ポイント高くなっている。このことは、問7の結果からも分かるように、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念を知っている人の方が、関連する施策の必要性についての認識が高いことを示す注目すべき傾向といえる。

問10 生涯を通じた女性の施策状況

「充実している」「やや充実している」の合計が50%以上のものは6項目しかない。問9の回答では、かなりの高さでその必要性を示しているが、実際の施策状況においての充実度は満足できるものではないとの結果が出ている。
「充実していない」「あまり充実していない」の合計は、17項目において50%以上であり、うち10項目は、75%以上である。施策状況では充実していないと考えられていることが分かる。最も充実していないと考えられているのが、「調査・研究」で86.8%である。この分野は過去の実施例も少なく、今後が期待される分野であろうと思われる。また、「摂食障害」「DV対策関連」「不妊専門相談」「薬物乱用防止対策」「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ関連」に対しての施策においても充実していないと考えられている。
一方、「充実している」「やや充実している」と考えられている中で最も高い数値を示すのは、「子宮がん・乳がん・骨粗鬆症の予防対策」であり、「一貫した母子保健サービス」「健康診査」も充実していると考えられている。
以上のことから、施策状況に関しては、従来の母子保健で行われている項目に関しては比較的充実しているが、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ関連やDV対策に関してはあまり充実していないということが明らかである。
男女共同参画プランは、女性の健康施策のうえでどの程度効力を発揮しているのであろうか。そこで、男女共同参画プランがある市町村とない市町村を比較してみた。その結果、全般的にみると、プランがない市町村職員の方が、プランがある市町村職員よりも「充実していない」のポイントが高い項目が多い。しかし、「健康づくり」「健康診査」「相談体制」など、従来の母子保健法で行われている施策については、プランのない市町村職員の方が「充実している」のポイントが高い。
以上のことから、男女共同参画プランは、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ関連やDVなど、身体的健康以外の女性の健康施策を進めていくうえで特に大きな影響をもつと考えられる。

(5)ネットワークについて
問11-1、2 他機関との連携に対する現状意識

生涯を通じた女性の健康施策を進めていくなかでの他の機関との連携について聞いたところ、男女共同参画関連と、健康推進関連を比較すると、どの項目を見ても圧倒的に、健康推進関連の職員が各機関との連携が取れていると答えている。なかでも健康推進関連では、「医療関係機関」「町内会」「学校」との連携が取れているとする数字が高く、施策を実行していく機関との連携はとれていると考えている人が多いように思われる。
また、男女共同参画関連と健康推進関連との連携をみたところ違いがみられた。男女共同参画関連では、「健康推進関連の課との連携」に「十分である」「やや十分である」の回答が多いが、健康推進関連の課では、「男女共同参画関連の課との連携」を「不十分である」「やや不十分である」とする回答が多く興味深い結果である。

(6)職場環境について
問13 仕事や職場に関する現状

「職場の人間関係は良好である」「育児・介護休暇がとりやすい雰囲気にある」「仕事と家庭と両立できる職場環境がある」は、いずれも7割以上の人がそう感じており、全般的に職場環境は良好と考えている人が多い。
 事務職と技術職を比較した場合、ほとんどの項目で「そう思う」「ややそう思う」の合計が技術職の方が高い割合であることから、技術職の方が全般的に職場環境が良いと感じているといえる。なかでも「資格を生かせている」の項目は、「そう思う」「ややそう思う」の合計が技術職で83.2%、事務職より62ポイント高く、「今の仕事にやりがいを感じている」も技術職が73.8%と事務職よりも23ポイント高くなっている。
 健康推進関連と男女共同参画関連で比較すると、男女共同参画関連の職員が「仕事について提案できるシステムがある」は13ポイント、「今後の働き方として管理職を目指したい」が10ポイント高い数値である。しかし、「上司に意見を言える環境がある」は10ポイント低い。
 男女で比較すると、「今後の働き方として管理職を目指したい」は男性が35.6%に対し、女性が21.4%と男性が14ポイント高く、男性の方がやや管理職志向が女性に比べて高いといえる。

第3章 課題と提言

1 男女共同参画プランのなかに「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」を明確に位置づける

プランの中に「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」がどのように位置づけられているかをみると、13市町村のうち重点目標などの「前文」「現状と課題」及び、「施策の方向」に掲げられている市町村が6ケ所のみであった。これではプランの中の生涯を通じた女性の健康施策において「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」は重要な位置付けにあるとはいえない。
施策の方向に具体的に示されているプランは7ケ所しかなく、その内容をみるとほとんどが「リプロダクティブ・ヘルス/ライツの啓発・周知および浸透」である。周知の方法などの具体的施策はあげられていないものが多い。また、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」という名称そのものの認知度が低いので、その概念を伝えるための学習、情報提供という程度である。
しかも、具体的に行われている施策をみると、従来の母子保健法や老人健康法に掲げられているものを、スライドして明記しているに過ぎない。リプロダクティブ・ヘルス/ライツは生涯にわたる健康課題である。しかし、健康支援の具体的内容をみてもわかるように、女性の健康に関しての取り組みは未だに母子保健の枠を抜け切れていないのが現実である。「性の自己決定権」といいながらも、性や避妊への取り組みが不十分なまま、「産む」ことが強調されるような事業だけが先行し、「産まない選択」に対する取り組みに欠けている。
また、県内でみると、男女共同参画プランを策定している市町村は13ヶ所のみである。今後市町村合併を機にプラン策定を推進し、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念を盛り込んだ「女性の自己決定権を含んだ生涯にわたる女性の健康支援」を推進するための具体的施策を打ち出していってほしい。

2 健康プランとの整合性を図る

健康推進関連課の職員にヒアリング調査をした際、よく聞く言葉は「私たちは母子保健法や老人保健法、健康増進法に基づいて仕事をしています」という発言であった。男女共同参画プランよりも担当課のプランおよび事業が優先されることは当然であろう。
では、担当課のプランの中にリプロダクティブ・ヘルス/ライツが入っているだろうか。男女共同参画プランにリプロダクティブ・ヘルス/ライツが掲げられることはもちろんであるが、健康プランがあるのであれば、そのプランの中にもリプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念を盛り込む必要がある。
例えば、青森市は「健康プラン21」のなかに、「女性の健康づくり」として『今後はさらに、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の視点で女性の健康づくりを推進していくことが必要です』と、掲げている。
千葉県は平成13年に堂本知事が就任した際、アクションプランの中に「健康づくりの推進」と「医療体制の拡充・強化」の二つを盛り込んだ。これにより「男女共同参画プラン」と「健康ちば21」の施策を部局横断的に取り組めるようになり、アクションプランは縦割り行政になりがちだった状況下で大変有用であったという。
世界女性会議の理念をうけて、「ジェンダーの主流化」が語られ、あらゆる施策にジェンダーの視点を盛り込むことが求められた。男女共同参画プランは市町村の施策にジェンダーの視点を浸透させるための重要な手段である。
ところが現実では男女共同参画関連課は、今のところ他の施策の事業展開に対して「ジェンダー・センシティブ」(ジェンダーの視点を盛り込んでもらうための提案)になってもらうための担当課にはなっていないといえる。
難しいことではあるかもしれないが、ジェンダーの主流化を図り、プロジェクトチームをつくり、男女共同参画関連課が健康推進関連課の事業計画の段階から、ジェンダーの視点を盛り込んでいただくよう提案をしていくことが必要である。

3 現場担当者の意識改革の必要性

アンケート調査の結果、男女共同参画関連課および健康推進関連課の職員の6割が「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」の言葉を「知らない」と答えている。男女共同参画をすすめていく中で、国の「男女共同参画基本計画」や県の「あおもり男女共同参画プラン21」に掲げられているにも関わらず、知らないということは重大な問題である。
アンケート自由記述の中に「すべての女性は、母を担って欲しい」(40代、男性、男女共同参画関連課)、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ…、何のこと? 日本語で表現できないのですか? 一般の人に認知されている言葉ですか?」(40代、男性、男女共同参画関連課)という記述があった。ジェンダー意識の質問をみても、性別役割分担の賛否に対し「どちらともいえない」という曖昧な回答をしている男性職員が4割を占めていた。
プランの中に「リプロダクティブ・ヘルス/ライツの周知・啓発」の施策がある。この施策は一般市民に対しての啓発であるが、まず先に職員に対しての周知・啓発が必要ではないだろうか。
心の健康ということからも、今後、相談事業の重要性が増すと思われるが、専門職員の知識や力量が必要となってくる。これは保健師だけに限らず、医師、助産師、看護師、カウンセラーや保健所、市町村保健センターなどの担当職員も含む。担当職員や保健・医療従事者は患者・相談者に対し、自分の道徳的価値判断を押し付けてはならない。あくまでも当事者の自由意思を尊重し、正確で包括的な情報提供を行う責任がある。そのためには専門家の養成にあたりジェンダーの視点や自己決定権を行使するための必須条件であるインフォームド・コンセント/チョイスを身につける必要がある。
国の施策のなかに「リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する研修の充実を図る」とあるように、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの周知や啓発に関わる人たちに対する研修の必要性がますます高まる。
また、自己啓発に結びつくきっかけや仕事に対する意欲を高めるためにも、研修の機会を増やすことが大切と考える。指導にあたる行政職員にリプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点がなければ、プランの中のリプロダクティブ・ヘルス/ライツは絵に描いた餅にすぎないのである。
アンケートの中で職場環境について聞いているが「仕事について提案できるシステムがある」と6割弱の職員が答えている。また「上司に意見を言える環境にある」と6割強の職員が答えている。このように職場環境としては良い環境にあると思われるので、ぜひその環境を活かし、有用な施策を提言しすすめていってほしい。

4 ネットワーク(連携)の必要性

ヒアリング調査の際、「男女共同参画関連課は健康推進関連課にどのように働きかけているか?」という質問をした。青森県は平成15年に知事をトップとする「青森県男女共同推進本部」を設置し、推進体制の強化を図っている。市町村においては進捗状況調査や情報提供、庁内連絡会議の設置などが行われている程度であった。また、アンケートの結果から男女共同参画関連と健康推進関連との連携をみたところ、男女共同参画関連課の職員は健康推進関連課に対し、連携が十分取れていると思っているのに対し、健康推進関連課の職員は男女共同参画関連課との連携を不十分であると感じているというギャップも浮き彫りにされた。
千葉県では『女性の健康 総合サポートシステムモデル事業フロー図』を作成し、保健所、関係団体及び学識経験者、行政関係、住民代表が連携しあいながら、地域の女性の健康づくりに取り組もうとしている。特に相談事業と女性外来の連携を図るために構築された。また、女性の健康づくりに関して情報の一元化をはかり、健康増進課に「女性の健康支援班」を設け、包括的に取組めるようにしている。
相談事業においては保健師だけに限らず、医師、助産師、看護師、カウンセラーなど専門的な知識が必要とされるので、市町村レベルでは対応することが難しい。保健所単位で対応することが必要ではないだろうか。
また、市民グループや団体とのネットワークも必要である。国の「健やか親子21」では、思春期教育の具体的取組み方法として、ピアカウンセリングが行われている。青森県内でも大学生のグループによるピアカウンセリングの取組が自主的に行われつつある。また、女性の健康と医療について考えるグループや産後の女性のからだについて考えるグループなど、市民グループによるさまざまな活動が繰り広げられている。
より暮らしやすい青森県をつくっていくための担い手は行政だけではない。行政、市民グループ、NPO、町内会、企業、学校などがそれぞれ役割分担をし、計画、実行、評価を繰り返しながら、実効性のある施策を組み立てていく必要がある。そのためには前述の千葉県の総合サポートシステムのようなネットワークを構築し、行政・県民のパートナーシップのもと、施策を進めていってほしい。

5 おわりに

男女共同参画プランになぜ「生涯を通じた女性の健康支援」が掲げられているのか。国の基本計画の中に「リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する意識の浸透」があり、これには「女性は妊娠や出産する可能性があることもあり、ライフサイクルを通じて男性とは異なる健康上の問題に直面する。こうした問題の重要性について男性を含め、広く社会全体の認識が高まり、積極的な取組が行われるよう気運の醸成を図る」とある。
 かつて女性の健康といえば生殖に関する問題が中心であった。女性は「産む性」として子産み・子育てが役割とされ、国や社会の中で支配を受けながら生活してきた。
 今、日本の女性は、世界一長い人生をいったいどのように生きているだろうか。身体的・精神的・社会的に充実した人生を送っているだろうか、自己実現の機会が男性と同じようにあるのだろうか。そこまで問わないと、健康を考えることにはならないのである。
 女性と男性の健康における格差、社会的・経済的な違いが女性の健康に及ぼす影響と、それらがどのように男性と異なるか。また、性別役割分担により、男性に比べ女性は就業率も低く、賃金においても男性の6割という現実がある。このことは、平均すると、女性は男性に比べ、権力が弱く、地位が低く、経済的資源が少なく、それにより自己決定と自立が難しい状況にあるということである。これが女性の健康に悪影響を及ぼしているといえる。
 高齢化がすすみ、青森県でも4人に1人が高齢者である社会もまじか。女性は男性よりも平均寿命が長く、一人暮らし高齢者の約4分の3は女性であり、また、高齢者の介護を女性が主に担っている現状では、高齢者が直面する問題の多くは、女性により大きな影響を及ぼすと考えられる。
 近年、性差医療がクローズアップされてきているが、これまで女性は「小さな男性」ととらえられ、男性を基準とした治療がなされてきた。
以上のように女性は、妊娠・出産するのは女性だけであること、ジェンダーによる不平等のため、女性のほうが男性より社会的に不利益をこうむる場合が多いことなどから、生涯を通じた女性の健康と、あえて女性を特化する必要性があると考える。
 施策として考えたとき、例えば、女性労働者の健康を考える時は、母性保護および母性健康管理の徹底を図る。これは単に病気に対してだけではなく、女性労働者がその能力を十分発揮する機会を確保するための環境を整備するということである。また、妊娠・出産を理由に女性が、雇用管理面で不利益な扱いを受けることのないよう企業に指導するなど、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの視点が盛り込まれて、初めて評価できるものである。
 リプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念が県民に浸透し、心身ともに健康な生活を送ることができるよう、施策を展開していく。女性も男性も身体的・社会的・精神的に健康な生活を送ること、それが男女共同参画につながると考える。
※ホームページでは概要のみの紹介になります。報告書をご覧になりたい方は、下記までお問合せください。

配布先 

  • 県内各市町村男女共同参画担当課、健康推進関連課

  • 全国の男女共同参画(女性)センター

などに配布しております。 

問合せ 

青森県男女共同参画センター

青森市中央3丁目17の1
TEL 017-732-1085 FAX 017-732-1073  

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